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第788节(第39351-39400行) (788/860)

それを未来視しなくては、あの少女は平然と生き延びる――!

「だから、今度は確実に近くにいる。オレの死体が見えるところにいないと、おまえの未来

視は成立しない」

一歩。トラックの荷台に両儀式がさしかかった。

爆弾魔が|起爆装置《しんかん》を起動させる。

一秒の内に酸化し、熱風を巻き起こす焼夷弾。

周囲をゆるがす爆音と、その爆音の何十分の一かの小さな爆発と黒煙。

両儀式は横合いから吹き付けた爆風に巻き込まれた。

そこまでは未来視の通り。爆弾魔の未来視は絶対に外れない。だが――直接、血をまき散

らし肉を焼いた少女の〃未来の姿〃は、視えていなかった。

〃――なんなんだ、あの女は〃

爆破現場となった橋を望む、五百メートル離れたオフィスビルの屋上。

そこに陣取った爆弾魔は、左目《げんじつ》の目で確かに見た。

とっさに川へ向かって跳躍《ちょうやく》し、爆風に飲まれながら落ちていった少女を。

人だかりとパトカーのサイレンの音。

その中で、川に浮かんだ少女は平然と川べりまで泳ぎ、体を起こす。

――瞬間。確かに、彼は少女と視線を合わせた。

やっと見つけた、と少女は川べりから歩きだす。これからゆっくりと、確実に、あの獲物

を捕らえて殺すと、いびつに歪《ゆが》んだ口元が語っていた。

爆弾魔は恐怖で麻痺《まひ》した思考を振り払い、オフィスビルから移動する。

この結末も予想の範疇《はんちゅう》。

少女の〃死体〃が視えなかった時点で、次の結果《みらい》にも備えてある。

〃――来た。この橋を生き延びてくれたおかげだ。これで、ようやく――〃

恐怖も、成功の確信によって塗り替えられる。

今から十五分後の立体駐車場。

彼はそこで八つ裂きになる両儀式の姿を、鮮明に未来視した。

爆弾魔の未来視は絶対だ。

彼女はあと十五分後、たとえ世界が滅びるような偶然が起きようと死亡する。

倉密メルカの未来視は確率によるものではなく、現実を合わせた事による必然である。

世界の秩序。事のあらましに逆らう事は、誰であろうと出来はしない。

未来福音/

などと、そんな乙女《おとめ》脳はほどほどにするとして。

「そっか。あんな事があった後だもんね」

困ったように笑いかけてくる黒縁メガネのお兄さん。往来《おうらい》のまん中で泣き出

したわたしに呆れている……のではなく、真剣に気遣ってくれているのがありありと聴き取

れた。

自分はともかく、少女の方が心配で仕方がない、という声。映像より音声にこう、前世の

因縁的な拘《こだわ》りを持つわたしの頭をぐらんぐらんにしてくれる。

「もし良かったら、そこの喫茶店で休んでいく?君も疲れただろ」

お兄さんの指した先には、ドイツ語の看板をかけた、石の要塞みたいな喫茶店が一つ。え

ーと、読みはアーネンエルベ。厳《いか》めしいけど、立ち話よりずっといい。

「は、はい。あ、ありがとうございます!」

わたしはみっともなくこぽれる感情《なみだ》を押し止めながら頷いた。

一瞬、警戒心という蛇《へび》がかま首をもたげたけど、しばし考えこんだあと、蛇はや

る気なくとぐろをまいて眠りに戻った。

お兄さんの言葉はナンパ以外の何物でもないけど、この人畜無害を絵に描いたような人が

下心なんか持っているハズがない、いや、持っていたらそれこそもうどうにでもなーれ、と

いう心境だった。